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2013年06月24日

6/21(Fri) ガイブン酒場

■新宿のちょっとわかりにくいお店で行われている「Live Wire」というトークイベントスペースにて、書評家の杉江松恋さんが定期的にイベントを行なっている。だいたい毎週金曜は杉江さんが何かをやってるような状況で、辻真先連続インタビューなどいくつかのシリーズとして展開されている感じ。で、そのひとつとしてガイブンの新刊を紹介するというものがある。もともとミステリを専門としてこれまで活動してきた杉江さんがいわゆるガイブン、まあ海外の主流/純文学を紹介するというもので、自身のトレーニングも兼ねているということだ。

■前回はリチャード・パワーズの特集だったみたいですごく聞きたかったんだけど、ともあれ今回はドン・デリーロ特集とのこと。デリーロは何冊かは読んでるけどあまり強い印象がない、という作家なので逆に話を聞きたくなったため、会場に足を運んでみた次第。

■今回取り上げるのはデリーロ以外に新刊3点で、編集者とかを舞台に上げて話を聞いていくというスタイルの模様。ちなみにデリーロ前作品を含め、取り上げる本すべての紹介文が書かれたレジュメが配られた。これだけでもけっこう価値がある気がする。

■一冊目はハリー・マシューズ『シガレット』(白水社)。ウリポ唯一のアメリカ人(だったのだが、最近は「唯一」ではなくなったとのこと)という売り文句で、ちょっとまえに佐々木敦さんがツイートしてた作家だとわかる。

基本的にはこれまでずっと翻訳不能・ていうか英語でも読めませんみたいな作品ばかり書いてきた作家だが、『シガレット』はその中ではもっとも読みやすい部類だとのこと。時間軸や人間関係が複雑に織りなされ、ミステリのような読後感があって、鮎川哲也『黒いトランク』を思わせるとか。また、今作は数学のアルゴリズムに則って書かれたということなんだけど、円城さんみたいな感じなのかしら。

4560090289シガレット (エクス・リブリス)
ハリー マシューズ 木原 善彦
白水社 2013-06-13

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■続いてはフランスの新人作家によるデビュー作、ローラン・ビネ『HHhH』(東京創元社)。翻訳者の高橋啓さんが登壇。まずはタイトルの読み方についての話に(笑)。英語なら「エイチエイチエイチエイチ」だがフランス語なら「アッシュアッシュアッシュアッシュ」、ナチ関連本ということでドイツ語で読むなら「ハーハーハーハー」となる。なんと読んでもいいけど書店で注文の際には「エイチエイチエイチエイチ」で、とのことでした。ナチの高官でヒムラーの懐刀と言われたラインハルト・フリードリヒの暗殺事件を描く、という内容。なのだが歴史小説を書くにあたって事実を追求するあまりにしまいには作者自身が出てきたりする。これって鴎外の『渋江抽斎』みたいなことなのかしら。また、主人公がチェコの総督代理だということもあってかクンデラの引用があったりして、著者自身チェコ文学にかなり傾倒している模様。訳者氏いわく、著者のテンションにつきあうのが大変だったとのこと。十数ページにわたって改行なしに続くド迫力の箇所があったりするんだそうで。なぜかフランス本国よりもイギリスなど外国での評価が高いとか。

4488016553HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)
ローラン・ビネ 高橋 啓
東京創元社 2013-06-28

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■3冊目はコラム・マッキャン『世界を回せ』(河出書房新社)という大著。かつて世界貿易センタービルのツインタワーにワイヤーを張ってそこを渡った芸人というのがいたそうなのだけど(『Man on Wire』というドキュメンタリーがあるそうだ)、その時に周辺で起こっていた様々なことを描く群像劇。小さなストーリーがたくさんあって、それが後半でガチっと組み合わさる瞬間があるということなので、アルトマンみたいな感じなんでしょうかね。

4309206220世界を回せ 上
コラム・マッキャン 小山 太一
河出書房新社 2013-06-11

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4309206239世界を回せ 下
コラム・マッキャン 小山 太一
河出書房新社 2013-06-11

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■といったあたりで一度休憩をはさみ、後半はデリーロ特集。対談相手として登壇のライター矢野利裕さん(『世界を回せ』でも、編集者が来てなかったので聞き手を務めていた)も新刊含めて何冊か事前に読んできたという。新刊の短篇集『天使エスメラルダ 9つの物語』の紹介が中心だが、併せてこれを期に過去の作品で邦訳が出ているものをすべて読んだという。その際、『マオⅡ』がどうしても入手できず(図書館にもなかったそうで)、なんとか貸してくれる人を見つけたのだそうだ。デリーロについては各作品の紹介文以外に年表も配布された。長編の発表年、『天使エスメラルダ』収録短編の発表年、および戦後アメリカ史の重大事件が書き込まれたもの。85年の『ホワイト・ノイズ』に出てくる空気中の有害物質というのが79年のスリーマイルの記憶を反映しているのではないかとの指摘(これ、311以後の日本人が読んでもなかなか興味深いものがある)。
88年の『リブラ 時の秤』はオズワルドとJFK暗殺にまつわる虚実混ざった「藪の中」的小説で、デリーロの「現実観」がよく出ているという。具体的に言うと「情報化」についてポストモダンになりきっておらず、情報化が進むほどに肉体性が顔を出す、みたいな。それは『コズモポリス』も同様でしょうね。ずっとリムジンで相場取引をしながら移動中に毎日健康診断を受けているという。ちなみに社内で前立腺の検査を受けながら大マジメに思弁的な経済哲学論議みたいなのをしてるという、真顔で冗談を言うようなバカバカしさもデリーロの魅力のひとつなんだけどその辺りはあまり触れられる機会がないようで。
で、新刊『天使エスメラルダ』はそういった変なユーモアも含めてデリーロの様々な魅力が一冊で味わえるお得な一冊で、入門編としても最適なのではないか、ということでした(ぼくも読んだけど確かに面白かったですよ)

4105418068天使エスメラルダ: 9つの物語
ドン デリーロ Don DeLillo
新潮社 2013-05-31

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ホワイト・ノイズ
ホワイト・ノイズコズモポリス (新潮文庫)
コズモポリス (新潮文庫)

■ちなみに次回はコーマック・マッカーシーだそうです!あと、この会場はぼくは2回めなのだけど、ガラッと模様替えしてイベントスペースとしての体裁がかなり整ってきた感じ。ぼくもなんかここでやりたいなと思うので何か考えますよ。

投稿者 junne : 2013年06月24日 19:31

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